番外編・記念式典の夜



「つまらんな」
 誰にも聞こえない小さな声で、つぶやく者があった。
 おそらく、実際誰の耳にも届かなかったであろう。
 彼の周りでは、正装をした人々が、手に飲み物を持ちつつ談笑している。
 談話するだけではない。巨大なショーケースの中身にまなざしを向けている者もあったし、一角にあるブースには、何十台と設置されたモニターを見つめている者もあった。
「これはどうも」
 いつの間にか傍らに、一人の男が寄ってきていた。
「大盛況の様子で、弊社としてもうれしい限りです」
「いつもお世話になっております」
 それなりに笑顔で返す。さすがに主催者がつまらない顔までしていてはよろしくないだろう。
 それに、相手は大企業の広報である。
「あの航空ショーのプログラミングはすばらしいものでしたね。一瞬フライドだとは思えませんでしたよ」
「実戦用ではないのが残念ですが」
 ショーケースに入っている機体……昆虫を思わせるような形状の戦闘機そのものは、新型兵器でもなんでもない。
 そもそも開発元は目の前にいる広報の企業……ドラッケン重工の機体である。
 一見すると、ドラッケンの展示会に見えなくもないとも言える。
「本当は、もう少しおもしろい催し物を披露したかったのですがね」
 ソフトウェア……目に見えないものを見せるためには、当然起動させるしかない。ショーケースの中では、その真価は実際にはわからないのである。
 ドラッケンの広報と別れた後、入れ替わりに知った顔が来た。
「社長。浮かない顔ですね」
「一応楽しそうにしているつもりだが」
 社員の遼である。こんな中にネクタイとシャツのボタンを2つばかりはずしている。もっとも、浮いているということでは、自分も白衣など着ていたりするのだが。
「夢うさぎはいかがなさいました?」
 遼の問いに、顎でそれを指す。その先には、なにやら楽しげにフライドを見学している者がいる。
「チキンハンターをつれてきているから、てっきり航空ショーを襲撃するかと思ったのだがな」
「杞憂でしたね」
「期待はずれ、だろ」
 兵器とは、実戦において評価されるべきものである。こんな展示などせず、てっとり早く戦ってみればいい。
 チャイムが鳴った。閉会時間だ。遼から渡されたマイクを手にし、簡単に挨拶をする。
 ……と。
「涼格社長! 検問を突破したランバージャックがこちらに接近中! IM Forceと思われます!」
 一気にどよめきが起きる。……来たか。
「皆様ご安心ください。いかにIM Forceとはいえ、皆様方に危害を及ぼすことはありますまい」
 そう。だれもOKEハードウェア企業に逆らえはしない。
「これから、特別ショータイムといたします。実戦形式で、新兵器の力をご覧に入れましょう」
 その言葉を合図に、背後の壁が左右に動き、中から天井まであるモニターが姿を現す。
 電源の入ったモニターから、まず飛び込んできた情景は……


●SYKES特務部隊 VS チキンの逆襲

「社長、敵が判明。SYKES元帥の部隊です。ろたエルとデフ・レパードの新型による混成部隊です」
 土煙を上げて迫りくる車両と、それを守護する浮遊砲台。……なるほど。対フライド用に、ロータスを引っ張ってきたか。
「こちらの戦闘準備はどうか?」
「万全です。これより迎撃に……ん?」
「どうした」
 答えを待つこともなく、三機のチキンハンターがモニターに映し出された。
「夢うさぎのチキンハンターです! どうやら敵と交戦する模様!」
 ……ほう。しかし、対空チキンでバッドをどうする……?
「まあ、手並みを見てやろう。今の内にこちらも準備しておけ」
「はっ!」
 と、すでに交戦に入ったようである。チキンハンターは対空機雷を撒き、敵を迎撃する体勢をとっている。
 まずはろたエルが戦場に姿をあらわした敵を発見し、突撃する。
 しかし、真上につく前に、散布されていた機雷に被弾。修復装置により少々は持ちこたえたものの、なにしろ数が多い。1分も経たずに全滅する。
 一方、ロータスに遅れてバッドドリームが戦場へ到着。カノンで遠距離射撃を行う。
 このたった一機の乱入により、戦況は一転した。次々とチキンがカノン砲の前に破壊されていく。
 もはや勝ち目なしとみたか、残った一機のチキンは戦場を離脱、退却した。


●VS 式典防衛部隊

 さて。夢うさぎの乱入の内に、こちらも準備は整った。
 まずは式典防衛部隊のメンバーが迎撃に当たる。
 防衛部隊のメンバーはグラスホッパー「臨壊」、ダークコフィン「空殺槍兵」、綾影「無限冥河」である。
 グラスホッパーの援護射撃に支援されつつ、綾影がデフ・レパードに接近。しかし、カノンによって阻まれ、なかなか接近できない。
 コフィンはミサイルにてろたエルを襲うが、巧みに回避され、真上に付かれて破壊される。
 コフィンを破壊したろたエルが冥河にとりつき、冥河はショットとカノンの二重攻撃を食らい破壊される。
 残ったグラスだけではもはやどうしようもない。抵抗むなしくカノンに貫かれ、破壊された。


●VS 無限兵団

 防衛部隊の全滅と同時に、無限兵団がSYKES特務部隊を襲う。
 構成は、フライド「無限逝雪Mk3」、バッドドリーム「無限蒼龍+」、綾影「無限冥河」である。
 いきなりろたエルとデフ・レパードと同時に相手をすることになった冥河が破壊され、幸先悪いスタートを切る。
 ろたエルはついで無限逝雪を襲うが、逝雪はうまくショットをかわす。デフ・レパードのミサイルも難なくかわすものの、回避に手一杯で攻撃のチャンスがつかめない。
 戦闘は膠着状態となるが、ついに端に追いつめられた逝雪がショットに被弾。撃破される。
 蒼龍も1機ではどうすることもできず、とりあえずデフ・レパードと交戦するものの、ろたエルの真上ショットに動きを封じられ、破壊された。


●VS 逝雪八式

 ついにSYKES部隊は、航空部隊との交戦にはいる。逝雪の新型、逝雪八式がまずは現れた。
 対ロータスプログラムは搭載しているものの、
 常に上下に動くタイプのロータスには、なかなかダメージを与えられず苦戦する。
 修復装置を使わせるところまではいくものの、致命傷が与えられない。
 一方、妨害装置装備の逝雪八式はじわじわダメージが蓄積し、一機が撃墜されてしまう。
 分が悪いと見た逝雪は退却。次の部隊と交代する。


●VS 螺雪空艇団

 次の部隊は新型のフライドチーム、螺雪空艇団である。フライド「螺雪/L、/R」と「轟雷」の混成部隊で、主に対地掃討を行う。
 ロータスに特攻を仕掛ける無茶なチームであり、やはり苦戦。とりあえず車両は破壊し、数的優位を確保するものの、ロータスショットをもろに食らい、Lが破壊される。
 ついでRが狙われるが、ここでろたエルが一直線に並んでしまい、後ろのショットが前のろたエルにヒットする。
 さらにRの6連ビームが炸裂し、このろたエルは破壊される。
 残り一機となったろたエルだが、まずは冷静に突っ込んでくるRを撃破。
 轟雷との勝負は膠着状態になり、轟雷は仕方なく撤退。


●VS 神雷三式

 轟雷に変わって現れたのは、投下爆弾フライド「神雷三式」である。
 そもそも神雷三式は混成を前提に作られた機体で、このように同一機体で編隊を組むのは異例である。
 投下爆弾では、逃げるバッドを追いきれず、ろたエルにはショットでダメージを削られ、散々な目にあう。
 このチームでは勝ち目なしとみたRind司令部は、生き残った一機を帰還させた。



「ろたエルか……すっかり忘れておったわ」
 改造フライドのコックピットに乗り込みつつ、舌打ちする。
 まくんS軍のロータスを基準にプログラムが組まれている逝雪では、ろたエルの機動をとらえることができない。
 防衛部隊に、ロータス撃墜部隊を加えるべきであったか……
 対ロータスプログラムは強化せねばならない。混成部隊に対する対処プログラムも追加だ。
 しかし、まずは目の前の敵を倒すのが先決だ。
 よりにもよって、飛行部隊しか残っていないのが不安材料だが、もはや手はない。
 自ら駆るフライドによって、戦いに望むほかないのである。


●VS 涼格親衛艇団

 涼格+親衛艇団チーム。
 モッキン「連星二式改」、フライド「涼格専用逝雪」、フライド「無限逝雪Mk3」。
 ロータスに30Mまで近づき、周回しつつショットをかわす涼格。敵のミサイルもなんなくかわす。
 ……が、緑機動がたたり、旋回しすぎてラプトルを被弾してしまう。そこにろたエルのショットが襲いかかり、涼格専用逝雪は空中四散。
 連星がオーディン→ラプトルの連携でろたエルに修復を使わせるが、それ以後は決定的な火力に欠け、戦闘が膠着する。
 涼格社長の遺志を継ぎ、決死の特攻で無限逝雪がろたエルの懐に潜り込み、ビームを打ち込み破壊するが、その直後にカノンを被弾。破壊される。
 連星はもはや勝機なしと見て退却。


       ◆   ◆   ◆ 

「ふっ……ロータスとバッドの混成か……」
 戦いの終わった戦場に、独りつぶやく者があった。
 この荒野で、そのつぶやきを聞く者はなかっただろう。
 ここは無人兵器の戦場なのだ。
「しかし……私は結論を得たよ……」
 さらになにやら独り言をつぶやいている。ぼろ切れと化した白衣をまとい、自分もぽろ切れのように地面に転がりながら。
「見ておれろたエル……次は必ず落とすぐべ」
 謎の語尾を最後に、それは盛大に吐血して、

 静かに夜は明けた。



BACK